ヴァンクーバーオリンピックでのアスリート達の素晴らしいパフォーマンスに圧倒される毎日が続いています。私は極寒の北海道内陸部で育ったので、ウインタースポーツは大好きですし、得意です。小さい頃は冬の遊びはスキーかスケートで、毎日のように楽しんでいました。今から38年前の1972年2月にはアジアで初めての冬期オリンピックが札幌で開催され、ジャンプノーマルヒル(当時は70m級と言っていました)での日本チームのメダル独占に日本中が熱狂した事を昨日のように思い出します。この頃、私は小学校6年生で、毎日テレビに食い入るようにして競技の中継を観ていました・・・この札幌オリンピックでは、ジャンプチームの他にメダルを期待されていた選手が数名いて、その中でも最も金メダルに近いと言われていたのがスピードスケート500メートルの鈴木恵一選手でした。彼は1960年代後半において世界最強のスピードスケーターで、最近の選手に例えると清水宏保さんのイメージに近いものがありました。1968年から1970年まで、数度にわたり世界新記録を更新し、札幌オリンピックではピークを過ぎていたものの、依然として有力な優勝候補でした。札幌大会の決勝では、芸術といわれたコーナーワークでまさかのミスが出て、メダルは逃しましたが、忘れられないスケーターの一人でした。現在まで続く日本のスピードスケートの輝かしい栄光は、鈴木恵一が源流であると言えます。
ところで、スピードスケートのスタートは、今回のヴァンクーバーで銅メダルに輝いた山形出身の加藤条治さんも大変ナーヴァスになっていたほどですが、38年前の札幌オリンピックで初めて国際大会を見た小学生の私にはどうしても分からない事がありました。それは、選手がスタートラインについて、スタートピストルを放つ前にスターターが発する合図のような掛け声でした。今は「ready」と言ってからスタートピストルを放つのですが、当時は少し違っていて、何と言っているのかどうしても分からなく、何度聴いても日本語の掛け声のように聴こえました。それは、「おんやまー!」(”お”に強いアクセントをつけていました)と言っているようで、友達同士でも「なんて言ってるんだろう」と毎日話題になっていました。結局、意味は分からず仕舞いで、スケート場でスピードスケートのスタートの練習をする時にも、「おんやまー!」と言ってからスタートピストルを打っていました。
それから長い時が経ち、そのスタートの事もすっかり忘れ、スケート場にも行かなくなり、音楽家としての毎日を送る中、確か1994年のリレハンメル大会だったと思いますが、スピードスケートをテレビで観ていた時、突然にスターターの言っている事がはっきりと聴き取れたのです。その時、札幌オリンピックでの疑問が一瞬にしてよみがえり、そしてようやく私はその言葉の意味を理解したのです。私が「おんやまー!」と日本語のように聴いていたのは、英語で「On your mark」つまり、「位置について」だったのです。なぜ、英語として聴けなかったかは分かりませんが(私の耳か、当時のテレビ音声の音質か、あるいはスターターの方の発音か・・・)やっと長い間の疑問が解けた瞬間でした。札幌オリンピックの競技は、その多くがYouTubeで見る事ができますが、スピードスケートを見ると、やはり「おんやまー!」」と言っているように私には聴こえます・・・・・(^_^;)
あと数日、アスリート達の素晴らしいパフォーマンスを楽しむ事ができますが、どのアスリートにとっても「On your mark」はスタートの合図の言葉だけではなく、彼らの人生においてさまざまな意味を持つ言葉なのではないでしょうか・・・・。