ホール中に響き渡る美しいサウンドと、息をのむようなピアニシモ・・・万雷の拍手の中、「さくらんぼコンサート」は満員の聴衆とオーケストラとの心が一つになった素晴らしい演奏会でした。交響曲第二楽章のイングリッシュホルンのソロは、心にしみ込むような忘れられない響きとして、いつまでも人々の記憶の中にとどまり続けることでしょう。このコンサートホールは、世界的な作曲家である武満 徹(1930〜1996)が監修したことから(完成は死後)「タケミツ・メモリアル」の名が付けられています。形状はシューボックス型ですが、コンサートホールとしては異例に高い三角形の天井が印象的で、まるで武満氏が天から音楽を聴いているかのような雰囲気があり、音響的にも大変優れたホールです。武満氏自身は、金管楽器の響きをあまり好んではいなかったと言われており、指揮者小沢征爾氏との対談書として大変有名な『音楽』(新潮社、1981年)の中からも、氏独自の音楽観を伺うことができます。そのような武満氏も、私たち金管奏者にとってきわめて重要な曲を残してくれています。20世紀の金管音楽の中でも最も重要なレパートリーの一つで、フィリップ・ジョーンズ・ブラスアンサンブルの委嘱により作曲された「ガーデン・レイン」(1974年)や、 「ヴィトルド・ルトスワフスキの追憶に」と題された「径」(みち Paths – In Memoriam Witild Lutoslawski – 1994年、トランペットソロ)は、きわめて繊細なテイストで作曲されており、金管楽器に対する印象を大きく変える作品です。山響のブラス・セクションも、近年はより多彩かつ繊細な表現力をも持ち合わせた素晴らしいセクションになりつつあります。カリニコフの最後のアコードが三角形の天井に届いたとき、私たちの演奏を聴いていた武満氏の顔が、ほんの少しだけ微笑んだように私には感じられました・・・・。